札幌高等裁判所 昭和27年(う)522号・昭27年(う)523号 判決
原判決が被告人酒本に対する事実認定の証拠として、相被告人高橋与八郎の検察官に対する第一回供述調書(昭和二四年九月三〇日附)同第四回供述調書(昭和二四年一〇月四日附)を証拠としていること及び検察官からの右各供述調書の証拠調の請求に対し弁護人高橋岩男が原審第十二回公判期日(昭和二六年七月九日)において証拠調に異議を申立ていることは所論の通りであるが、右検察官の証拠調べの請求は刑事訴訟法第三百二十一条第一項第二号によるものであることは原審第十二回公判調書により明かである。
ところで刑事訴訟法第三百二十一条第一項の被告人とは、当該被告人以外の者であつて、共同被告人も含まれるものと解すべきで被告人酒本の関係においては、共同被告人高橋与八郎は本条の被告人以外の者に該当するものであるから前記被告人高橋の供述調書が同条第一項第二号の要件を具備すれば証拠能力を認められるのである。従つて証拠能力が認められるとその証拠調べの請求に対し弁護人が証拠とすることに不同意で、且つ証拠調べに異議があつたとしても、裁判所ではこれを証拠とすることに差支えないのである。
前記被告人高橋与八郎の検察官に対する供述調書中その供述が虚偽であるか否や又刑事訴訟法第三百二十一条第一項第二号にいわゆる公判準備又は公判期日における供述が前の供述と相反するか若くは実質的に異つた供述であるか、又同号但書の規定により検察官の面前における供述を録取した書面を証拠とするにあたつて該書面の供述が公判準備又は公判期日にする供述より信ずべき特別の情況が存するか否かは、結局裁判所の裁量にまかされているものと解するのが相当である。本件記録を精査すると被告人高橋与八郎の検察官に対する第一回供述調書は昭和二十四年九月三十日附であり、同第四回供述調書は、同年十月四日附であり、その供述も理路整然としているのであつて、一方昭和二十六年五月七日の第十一回公判調書中検察官と被告人高橋与八郎の問答を見ると、その問答中、問「被告人が旭川地方検察庁名寄支部で検察官の取調を受けたとき述べたことは間違いないか」答「時間が相当経つているので、はつきり記憶ありませんが、当時としては正しいことを述べたと思います」問「すると職務に関して御馳走したのではないというのか」答「はい職務に関してではありません」問「被告人は支払をした回数もわからないか」答「金額も回数もわかりません」問「場所はどこか」答「場所については名寄支部で取調を受けたとき述べたのが正しいと思います」等の供述記載その他を綜合すると、原判決挙示の被告人高橋与八郎の検察官に対する供述調書と第十一回公判調書中同人の供述が実質的に異つた供述であり又検察官に対する供述を信用すべき特別の情況が存するものと認められる。従つて原判決が右検察官に対する被告人高橋の供述調書を証拠としたのは相当であつて法令の適用を誤つた違法はない。弁護人は独自の見解に立脚して、裁判所の裁量の属する証拠の取捨選択及びその価値判断を攻撃するものであつて、論旨は理由がないものである。